統合医療について
①近代西洋医学及び伝統医学や相補・代替医療従事者による共同医療(真のチーム医療)
②QOL(生活の質)の向上をを目指し、患者1人1人に焦点を合てた患者中心の医療
③身体、精神のみならず、人間を包括的に診る全人的な医療
④治療だけでなく、疾病の予防や健康増進に寄与する医療
⑤生まれてから死ぬまで一生をケアする包括的な医療
⑥「尊厳ある死(Death with Dignity)」と、患者だけでなく遺された遺族 も満足できる
「良質な最期のとき(QOD:Quality of Dying and Death)」を迎えるための医療
日本の統合医療構想の実現に向けて
~理事長就任挨拶~
日本統合医療学会 理事長 伊藤 壽記
この度、前仁田新一理事長の後任として、日本統合医療学会の理事長を拝命致しました。本学会の創始者であられる渥美和彦 栄誉学会長ならびに仁田新一 名誉理事長の薫陶を受け、これまでの基本路線を継承しますとともに、更なる発展を遂げるべく奮励努力する所存であります。一言、ご挨拶を申し上げます。
今、医療が変わろうとしています。7年前の東日本大震災が引き金となり、個々人の価値観や人生観に変容をもたらし、自らの健康は自らで管理しようというセルフケアや予防医療への意識が芽生え、さらにはエネルギーに依存せずに必要に応じてエコロジーのすべ(術)を活用しようという機運が出てまいりました。
我が国は超高齢社会の到来とともに、疾病の殆どががんを始めとする生活習慣病であり、それらの病態は身体的、心理的、環境的、社会的な要因が相互に関連する“複雑系”です。こうした状況下で、生活習慣病に対して対症療法が主体の近代西洋医学による現行の医療だけでは自ずと限界があり、新たな医療体系の構築が必要です。すなわち、キュア(cure)を目指した、20世紀の「病院完結型」医療から、ケア(care)を目指す、21世紀の「地域完結型」医療へのパラダイムシフトが考えられています。
そこで、現行の医療と補完代替医療(相補・代替医療)(CAM)を有機的に融合させた統合医療がこれからの医療の方向性を示す一つの医療体系と考えられています。今後深刻な問題である高齢者医療(メタボリック症候群、ロコモティブ症候群、認知症など)や心身ともにアプローチしなければならない大規模災害後の後遺障害などは、保険の枠組みで行われている現行の医療では充分に対処できない領域であり、これらがまさに統合医療に求められるところです。日本政府はこうした状況に鑑み、震災以降、統合医療に対する支援体制が本格的にスタートしています。2012-13年には厚生労働省で「統合医療」の在り方に関する検討会を開催され、統合医療が定義されました。2014年からは、国民に統合医療の正しい情報を発信するデータベース(「統合医療」情報発信サイト)の事業が始まっています。また、2014年に設立された日本医療研究開発機構(A-Med)の枠組みの中で、翌年より統合医療に関する研究助成が始まり、年間1億円の研究費が計上されています。また、2016年には、厚生労働省医政局に統合医療企画調整室が開設されました。
統合医療の実施にあたり、2つのモデルが考えられています。一つは医療従事者が中心の集学的チーム体制で疾病に対応しようとする医療モデルであり、もう一つは地域のコミュニティが主体となってQOLの向上を目的とした社会モデルであり、これらが相互に連携した新たなコンソーシアムの創生が必要となります。前者は統合医療に関する臨床研究を推し進め、その結果得られたエビデンスを医療の現場や地域のコミュニティに還元していくことが求められています。また、後者では、平常時においては健康寿命の延伸を目指して予防医療やプライマリーケアを推進し、いざ災害などの有事に際しては、迅速に対応するといった両面性を有することが求められています。政府が提案している地域包括ケアでは、統合医療が重要な位置付けになることが期待されるところです。
最後に、持続可能な健康長寿社会の実現のために、欧米の統合医療的アプローチをそのまま継承するのではなく、我が国の風土に合った日本型の統合医療を開発推進していくことが求められています。
統合医療とは?
「統合医療」とは、近代西洋医学を中心として伝統医学や相補・代替医療を適宜合わせて行う医療のことを言います。
明治維新まで日本の医療は、和漢薬や鍼灸が中心でした。しかし明治政府は、これらを医療の本流から外し、近代西洋医学を我が国の医療とし、その後、健康保険制度の成立とともに、近代西洋医学のみの医療体系が出来上がりました。
近代西洋医学の恩恵は計り知れません。感染症や急性で重篤な疾患に対して素晴らしい効果を示し、これまで助からなかった生命を救い、寿命の延長に大きく貢献しました。再生医学やゲノム解析を用いた診断技術は今後も期待される分野です。
一方、癌、心臓、脳血管疾患、糖尿病、高血圧症などの生活習慣病や慢性疾患、また現代病と言われるアトピー性皮膚炎、機能性胃腸症、花粉症、うつ病などの増加の下で、近代西洋医学の効果に限界を感じ始めた患者や医療従事者も少なくありません。
人間には、本来「自然治癒力」と呼ばれる自分で自分を癒す力があります。その力を引き出し医療として、伝統医学や相補・代替医療が、今、見直されてきているのです。
そこで、近代西洋医学の利点と伝統医学や相補・代替医療の利点を合わせた医療を行うのが「統合医療」です。「統合医療」は、21世紀の医療といて、国内のみならず世界中で注目されています。
統合医療の目指すこと
統合医療の概念は幅広く、現在の日本の医療が抱えている多くの問題を解決する手段としてその実現が望まれています。人間が人間を尊重し、その人自身の持っている治る力に働きかける医療は、現在あまりにも機械化しすぎた医療の根本を改める「エコ医療」(エコロジカルでエコノミカルな医療)でもあるのです。何よりも現在、大問題になっている医療費の増大を防ぐことが期待されています。
また、超高齢社会である現代社会において、要介護年齢を先延ばしにし、元気な高齢者の比率を高めることにも「統合医療」は役立つことでしょう。
統合医療を担う専門家たちは、国民に、ヨーガ、鍼灸、漢方、音楽療法、健康食品やサプリメント、ハーブ、アロマ、
などについて正しい情報を提供し、健康生活の基本となる睡眠、運動、食事、休養などの正しい知識を伝えて、病気の予防、健康増進を図ることを目指しています。
行動経済成長を経て、現代人は、「人生に何を求め、何を心の拠り所とすべきか」を模索しています。これからは、「死」や「病気」に対する価値観も大きく変わることでしょう。
そうしたことを含めて考え実践していく医療、それが「統合医療」です。
統合医療の実践
「統合医療の実践には、真のチーム医療が求められます。近代西洋医学的所見、治療および、マネージメントを担う医師、患者のトータルコーディネートを行う看護師、管理栄養士、心理療法士、運動療法士、伝統医学や相補・代替医療の専門家などがチームとなって、その患者さんの状態に応じた治療方法を選択するお手伝いをし、最適な手段を提供していきます。「統合医療」はそれぞれ専門家が責任と使命を認識し、互いに敬意を払い対等な立場で、行われることを理想とします。